虹の向こう

アイドルと共にともに。

舞台WILDを見に行きました

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Hey!Say!JUMP中島裕翔くんの初主演舞台WILDを見に行って来ました。

2013年のスノーデン・リークに着想を得て、2016年にイギリスで上演された舞台。日本初演を小川絵梨子さんが演出、裕翔くんが主演を務めています。
幕が開ける前の雑誌インタビューで度々ゆうてぃーが「スノーデンさんのことを予習しておいたほうがいい」と言っていたので、考えられる映画と著作には目を通しました。
映画は、スノーデン、シチズンフォースノーデンの暴露、フィフスエステート、ゼロダークサーティーペンタゴンペーパーズ、公開中のバイス。書籍はスノーデン日本への警告、スノーデン監視大国日本を語るというシンポジウムを文字起こししたもの2冊。
舞台を見た後で言うと、まずスノーデンが告発に至った経緯は理解しておいたほうが良いので、映画「スノーデン」は見ておくべき。あと話の本筋ではないけど会話に登場するので「フィフスエステート」、スノーデン告発前後の緊迫した状況を理解できるので「シチズンフォースノーデンの暴露」も。






以下ネタバレを含みます。


舞台は大まかに4つのブロックで構成されている。
①アンドリューと女
②アンドリューと男
③アンドリューと女再び
④アンドリューと女と男
アンドリュー役のゆうてぃーは出ずっぱりも出ずっぱり、舞台に現れたが最後、カーテンコールまで1度も袖へ捌けることなく、ずっと舞台に立ち続けてアンドリューとしてそこに居ます。

舞台のあらすじはこんな感じ。

アンドリューはほぼスノーデンと同じ背景を持った人として紹介されている。スノーデンはアメリカの国家機密をリークした後、ウィキリークスから支援を受け、ロシアに亡命した経緯がある。舞台WILDはそのロシアに亡命申請中のホテルが舞台となっている、とされていたため、あたかもアンドリューはイコールスノーデンであるかのように錯覚し、舞台序盤はその前提のもとで会話を受け取っていた。
でも、これはスノーデン・リークに着想を得ているだけで、アンドリューはスノーデンではない。アンドリューがスノーデンなら、名前はスノーデンでいい。そうではないということは、舞台WILDはスノーデン告発後を描きたかったわけではなくて、また別のテーマに沿って描かれているのだ。

①アンドリューと女、②アンドリューと男では、アンドリューが2人の人間にそれぞれ振り回される様が描かれている。
アンドリューは2人を、亡命を手助けしてくれる組織(明言しないけどウィキリークス)のあの人(明言しないけどアサンジ)の下で働いている人物だと思って、部屋に入れ、会話をしていく。ここでの会話がとにかく回りくどくて、且つ永遠と取り留めのないことを話しているようだから、ラジオでもゆうてぃーが言ってたみたいに「これ何言ってるんだろう?」ってなる。
でもよく聞いてみると、特に①女とのブロックでは女がマシンガントークをしながら、巧みにアンドリューの個人情報を聞き出しているように聞こえる。例えば彼女シンディーの名前、出会った経緯、「別れたのかと思った」と言ってやり取りの詳細を聞き出したり。「女はアンドリューの個人情報をすべて知っている」とあらすじにはあったけど、詳細なことが女から語られることはなくて、例えば両親の名前とか、②男との場面でも指摘されてるように、少し調べればわかる程度のことしか言ってない。友人なのか同僚なのかの名前を羅列するシーンもあるけど、「マイケル」「サラ」とかアメリカではよくある名前のようにも思える。学校や職場の名簿に目を通しているのかも怪しいんだよなあ。ゆうてぃーに対して「山田さん」との関係を知っていますよ、というようなものでは。日本で山田さんはポピュラーな名前だし。
でもマシンガントークでイライラさせられ、合間に自分の個人情報を知っているように匂わされ、すっかり女のペースに巻き込まれるアンドリュー。電話かけてみてって言われてかけようとしちゃうし、あっさり携帯は盗まれるアンドリュー。②男との場面でも「チョコレートには何が入っていたんだろうね」と指摘されるまで、疑いもせず差し出されたチョコレートを食べてしまうアンドリュー。友人とも話していたけど、この辺危機管理能力が低すぎるアンドリューが多々露呈している。「シチズンフォー~」にもある通り、実際のスノーデンさんは自身の持つ技術を総動員して自らの身の安全を確保している。果たしてアンドリューが本当に国家機密の告発をすることができたのかすら疑わしくなってくる。

②男との会話で、男にパスポートを見せられ「これじゃあなたがあなたであるということしかわからない」「身分証明とはそういうものだ」「でも何かあるでしょ」「メンバーズカードとか?ジムじゃないんだ」「わからないけど、書類とか!」とのやり取りがあったり、③女との会話で、「あなたの本当の名前を教えてくれたら仲間になる」「名前はいくらでも嘘をつける。今ここに私という人間がこの身体でここにいる、証明できるのはそれだけ」というやり取りもあって、この辺りから、何を持って私たちは「信じる」という結論に至ることができるのかという、この戯曲が投げ掛ける疑問に接することができる。
それにしても、③女とのやり取りで、信頼を証明するために自傷行為をすることが示してることの正解は何なんだろう。やくざが指つめるみたいなことなのかなと思ったけど。やくざに詳しくないからよくわからないけど。目の前で血が流れたり、その衝撃さを持ってアンドリューの意思決定を思うがままに操ろうとしたという認識でいいのかな。そして仲間になると言っちゃうアンドリュー。4日昼公演では、女が出血を止めるためにティッシュを要求して、焦ってティッシュを探すアンドリューという場面で、焦るあまりに戸棚を破壊してしまったアンドリュー(ゆうてぃー)。「あっ、壊れた!」言っちゃうアンドリュー(ゆうてぃー)。可愛い!

④では、壁に飾られた絵画や電話機の構造から、今自分がいる場所がホテルでないと突き止めるアンドリュー。周りの壁や家具が偽物であることがわかる場面、仕掛けや舞台美術が素晴らしくて本当に驚いた。最初に劇場に入ったとき、どうしてこの広いステージの上でホテルの部屋のセットがやたらこじんまりと作られているんだろう?と不思議に思ったのだけど、すべては最後の時空が歪む表現のためなのだなと。でも一方でこの仕掛けのために、グローブ座では死角になる席が多く発生してしまうということはもったいないことでもあるなと思った。
女も男も組織の人間ではなかった、アンドリューがいた場所はホテルの一室ですらなかった、という物事のすべてが根底から覆される事実に衝撃を受けながらも、組織の一員になることを約束してロシアのパスポートを手に入れ、覚悟を決めたように前へと歩みを進めるアンドリュー、という場面で舞台は幕を閉じる。怒涛の展開の中で、ゆうてぃーが言っていたように観客の代弁者であるアンドリューが、目の前の事実を受け入れまた歩き出すという演出に込められているのは希望なのだろうか。

舞台としては、スノーデン事件の設定を借りて、アンドリューという男を使って「告発後の世界」を、皮肉を込めて描きたかったのではないかなと思った。
2013年にスノーデンが国家機密を暴露して、2016年にマイク・バートレットが戯曲を発表するまでの3年間で世界はどう変化したのか。スノーデン自身は世界をどう変えたいという意図があったわけではなく、国家が国民を監視しているという事実を知ることで、それが正しいのかどうか人々が判断するべきだと思ったと、再三映画や著作で述べている。実際スノーデン・リーク以降、アメリカでは監視の一部が誤りであったことを認め、アメリカ自由法が制定されたことで監視の権限が制限されるようになった。かと思えば、日本では特定秘密保護法が制定され、機密漏洩の厳罰化が進んだ。イギリスはアメリカのセカンド・パーティーとしてアメリカと同程度に個人情報を収集できる仕組みを保持していて、監視カメラ先進国として街にはたくさんのカメラが設置されている。④で女も指摘した通り、フェイスブックやインスタグラムがより普及し、人々は情報の漏洩に気を配るどころか自ら情報を垂れ流している。個人情報の取り扱いについては一進一退を繰り返している。
私自身、スノーデンという名前は知っていたものの、外国で起こったこととしてしか認識しておらず、XKEYSCOREという「スパイのGoogle」とも呼ばれる検索システムがアメリカから日本に譲渡されたことも、今回舞台きっかけに映画や本に触れなければ知ることはなかっただろう。好きなことを好きなようにしか摂取しない世界にいたら、気づかないうちに自由が奪われている可能性がある。どういう風に情報に触れて取捨選択していくかは今後の人生の課題でもあると思った。


ゆうてぃーの演技を生の舞台で見ることができたことは、本当にとても贅沢で幸せな時間だった。今まで映像作品では何度も見てきたけれども、その編集やカメラワークにより効果的に演出されている部分ももちろんあるわけで。でも舞台においては、それこそ身一つで感情を目の前で動かし、言葉を紡いでいく。アンドリューと一緒に観客として感情を動かすことができて、改めて貴重な経験だったなと思う。
太田さん、斉藤さんあってこそのアンドリューだったので、お二人の演技の素晴らしさにも圧倒された。特に太田さんは台詞量が多いだけでなく、最後の驚きの仕掛けに一役も二役もかっているから、その場面でのプレッシャーはいかほどかと。おかげさまでとても驚いたし、一癖ある舞台として印象に残るものとなっています。あと唐突ですがゆうてぃーの体幹も褒め称えたい。


以上、考察ですらないけど観劇しての感想でした。面白かったです。千穐楽までどうぞ皆さん無事に完走されますように。